相棒&仮面ライダーディケイド 傍迷惑な殺人
□プロローグ
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東京都、某区。
そこで最近、奇妙な「死に方」が流行した。
手っ取り早く言えば衰弱死なのだが、原因は不明。最初は新種のウィルスの可能性も示唆されたが、検査の結果それは無いと発覚。
死者にも共通点が無いことから、都民はその原因不明の「死」の影に怯えていた。
「またですよ右京さん」
「はい?」
濃い緑のジャンパーを着た短髪の男性が、自席で紅茶を嗜んでいた眼鏡の男性に声をかけた。
体育会系そのもののジャンパーの男性に対し、右京と呼ばれた眼鏡の男性は、どちらかと言えば知的な印象を受ける。
「原因不明の衰弱死。この二週間で九人目です」
言いながら、ジャンパーの男性は右京の後ろにあったテレビをつける。
その箱の中では、女性アナウンサーが新たな死者を悼みながらも、最近流行しているこの「現象」を専門家に問いかけている。
画面の端には、赤字で人々の恐怖を煽るような文句が書かれていた。
「いたましいですねえ。僕達は病に対しては、あまりにも無力です。そう思いませんか、亀山君」
心底残念そうに、右京はジャンパーの男性、亀山にそう言葉をかけた。
…警視庁、特命係。
字だけを見れば格好良く見えるが、実際は「人材の墓場」と呼ばれる部署である。
「特に命令が無い限り何もしない」のが、特命係のスタンスなのだが、最近は自己判断で動くことも多く、上層部から煙たがられている存在だ。
所属人数は二名。眼鏡の男性…杉下右京警部と、その部下であるジャンパーの男性、亀山薫巡査部長。
たった二人ではあるが、彼らが解決に導いた事件は数知れず。知的かつ細かい所を見落とさない推理力の持ち主である右京と、熱血漢で人情味溢れる亀山の名コンビである。
今のところ、大きな事件も起こっておらず、彼らが動くようなこともないのだが…やはり、心痛の種はあった。
最近流行の、「原因不明の衰弱死」である。
先程亀山が言った通り、この二週間で既に死者は九名。その症状は、現代医学では手の施しようが無かった。
「ねえ、右京さん。俺思うんですけど、やっぱりこれって何かの陰謀じゃないですかね?なかなか検出されないウィルスとか」
「それなら、真っ先に医療関係者が亡くなっているはずです。しかし、今の所そう言った報道はされていません」
「あ、そっか」
右京に言われ、亀山は再び低く唸る。
病なら、原因があるはずだ。しかし、その原因が分からない。ウィルスなら右京の言った通り、医療関係者が二次感染者として現れるはずだが、現段階では、そのような情報は無い。
患者が昏睡状態になってから、亡くなるまで、およそ丸一日。
多少の個人差はあるが、その衰弱の早さは異常とも言えるものだった。
「よ、暇か?」
そう言って「特命係」の部屋に顔を覗かせたのは、黒縁眼鏡の、やや額の広いひょうきんそうな男…組織犯罪対策部組織犯罪対策五課長、角田六郎。階級は右京よりも上の、警視。
とてもそうは見えないが、薬物や銃器関係を取り締まる課の長である。
ちょくちょくここに顔を覗かせ、勝手にマイカップを置いてこの部屋のコーヒーを飲むのが、もはや日課と化している。
その彼が、亀山の視線の先…テレビの画面を見ると、ややオーバーにも見えるリアクションで、がっくりと肩を落とした。
「ああ、これ?怖いよねぇ、この病気で亡くなった人達、前日まではいたって普通に生活してたって言うんだからさぁ」
「課長、詳しいっすね」
「そりゃあね。五人目の被害者がウチの町内会の会長さんでさ。ジョギングの最中に発症したんだって」
元気な人だったのになぁ、とコーヒーをすすりながら角田はどこか寂しそうに呟く。
彼も、警察官だ。人が…まして付き合いのあった人物が亡くなったことが、やはりいたましく感じるのだろう。
「正体不明ってのが、また怖いよねぇ」
くわばらくわばら、と呟きつつ、角田はずずっと音を立ててコーヒーを飲み干した。
行儀が良いとは決して言えないが、半ば日常と化しているので特に咎めることはない。
…この時の彼らは、予想していなかっただろう。
この原因不明の衰弱死が…傍迷惑な殺人であるなどとは。
「今度の世界は…何なんだろ?」
写真館のホールらしい。プロ仕様のカメラが中央にあり、脇には暗室らしい部屋も見受けられる。
そんな場所で、うーんと唸りながら、垂れ目気味の青年が呟く。
彼の名は小野寺ユウスケ。またの名を、仮面ライダークウガ。
グロンギなる戦闘種族と戦い、その時に知り合った無二の友人に付いて、共に「異なる世界」を旅する「異邦人」である。
その彼が見上げているのは背景ロール。
先日までは「暗い空に銀色の要塞と、大地に刺さった銀色の杭」だったのだが、今は「灰色の、角地に合わせた造りの建物と、クリスタル製らしいチェス盤」と言う、何とも言えない取り合わせ。
その絵に、心当たりなど勿論、無い。
「この建物…どう見たって警視庁だよなぁ…」
「そうみたいですね」
ユウスケの言葉に頷いたのは、長い黒髪の少女。この写真館の看板娘である光夏海だった。
そんな彼女の後ろには、彼女の祖父である光栄次郎が、いつものお気楽な笑顔で朝食を用意している。
「ところで…士君はどこ行ったんですか?」
「俺ならここだ」
夏海の言葉に答えるように現れたのは、ユウスケよりも背の高い、首からマゼンタ色のトイカメラをぶら下げた青年…門矢士。またの名を仮面ライダーディケイド。
数多の世界を巡り、世界を救う旅の最中である…の、だが。
「今回のその格好……何?」
不審その物の顔でユウスケが問いかける。が、本人も今一つ分からないらしく、その服…白衣の裾をはためかせた。
医者、だろうか。少なくとも、同じ白衣でも科学者には見えない。
「身分証がある。…これだ」
「えーっと…『監察医・門矢士』……監察医ぃ!?」
「ああ。どうやらこの世界では、死体を見るのが仕事らしいな。それにしても…俺はやはり、何を着ても似合うな」
素っ頓狂な声で身分証と持ち主を交互に見比べるユウスケに対し、自己愛に満ちた感想を鏡の前で吐きながら、士は背景ロールの絵をじっと見つめる。
警視庁と、クリスタルのチェス盤。そんな絵の描かれた世界で、監察医となって、一体何をしろと言うのだろう。
「この世界には、どんなライダーがいるのかな?」
「さあな。会ってみれば分かるだろ」
どことなく楽しそうな表情で言ったユウスケに、冷たく返しながらも、士はどこか不安げに外を見つめる。
奇妙な不安が、彼の胸に過ぎる。
が、それを誤魔化すように、士は真っ直ぐに玄関へと赴き…
「ちょっと出かけてくる」
「あ、俺も行く!」
「待って下さい、私も行きます!」
士の後をユウスケと夏海が追いかける。彼を1人にしておくと、何をしでかすか分からない。それに…大ショッカーなる存在も明らかになり始めたのだ、用心するに越したことは無い。
「花の里」と書かれた看板を通り過ぎながら、彼らはとりあえず、背景ロールの建物…警視庁へと、歩き出して行った。
→特命係-1:不可思議