相棒&仮面ライダーディケイド 傍迷惑な殺人

□特命係-1:不可思議
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プロローグ


「…気になりますねえ」

 何かの資料に目を通していた右京が、視線を上げるや否や、ぽつりとそう呟いた。

「気になるって…何がです、右京さん?」
「例の、原因不明の衰弱死です。ここを見て下さい」

 コーヒーをカップに注いでいた亀山の問いに答えると、右京は持っていた資料の、ある部分を指し示す。
 それは、亡くなった者達が、最初に発見された場所。

「えーっと、一人目は喫茶店の前、二人目は商店街、三人目は駐車場で、四人目は高層ビルの屋上、五人目…ああ、課長の町内会の会長さんですね、この人は牧場前の路上…」

 右京に言われた通り、亀山はそれぞれが発見された場所を読み上げていく。
 喫茶店、商店街、駐車場、屋上、路上、森、東京タワー前、駅のホーム、お化け屋敷と噂される家の前。そのどれにも、これと言った共通点は見つからない。

「はぁ〜見事にバラバラですねぇ…」
「おかしいと思いませんか?」

 左手で「1」を作るように軽く人差し指を立てながら、右京は亀山に問いかけた。
 …しかし、見事に何の関連も無さそうな九つの場所に、右京は何かを見出したらしい。その「何か」が何なのか、亀山には分からないのだが…

「九人もいれば、誰か一人くらい、屋内で倒れてもおかしくは無いと思いませんか?」
「あっ!確かに!言われてみれば皆屋外ですよ!けど…偶然じゃ無いっすかね?」

 確かに、屋外と言う共通点は見出せる。九人と言う数字は少なくは無いが、偶然で片付けることも、決して出来ない訳では無い数字でもある。

「それに、もう一つ」
「まだ、何かあるんですか?」
「ええ。彼らは人気の少ない所で見つかっています」
「あ、ホントだ」

 屋上や森、お化け屋敷前は元々人気の少ない所だし、他の場所も人通りが多い訳では無いか、或いは人気の少ない時間帯に見つかっている。
 人の少ない屋外。共通点と言えなくは無いが、決定打とも言えない。
 だが…この僅かな共通項から、新たな何かを発見できるかもしれない。

「けど…これ、どう言うことなんでしょう。皆、見つかる程度には人気のある場所で倒れてるってことですよね。何か意味があるのかなぁ…」

 困ったようにガシガシと自分の後頭を掻き毟る亀山に、右京は表情を崩さずに紅茶を一口飲み…もう一度資料を見つめる。
 職業も年齢もバラバラで、冒険家に始まって、家事手伝い、雑誌記者、フリーター、研究員、和菓子屋店員、料理研究家、高校生、そしてバイオリニスト。
 その職業と、見つかった場所を見比べながら、右京は不思議そうな…と言うよりは、不審そうな表情になる。

「亀山君、不自然だと思いませんか?」
「えーっと…誰も屋内で見つかっていないことが、ですか?」
「いいえ」

 亀山の問いを否定し、右京はホワイトボードへ何かを書き込む。それは、亡くなった面々の職業と発見場所。上段に職業、下段に発見場所を書き記すと、講師のようにペンでコンコンとホワイトボードを軽く叩いた。

「見て下さい。三人目…雑誌記者の方までは、見つかってもおかしくない場所で見つかっています」
「ああ、はい」
「しかし四人目…フリーターになると、一気に奇妙になる」
「あ、確かに、高層ビルの屋上なんかに、どうやって…」
「方法が全く無いとは言いきれませんが、やや不自然です。そして、問題は六人目…和菓子屋店員が見つかった場所です」
「確かに!何で和菓子屋の店員が森なんかにいるんだ!? 冒険家の人がここで見つかるならまだしも…」

 指摘されれば、その違和感を拭いきれなくなる。
 皆、人気の少ない場所…しかも屋外で発見されたこと、職業と発見された場所の不自然さ。
 気付いてしまえば、この一連の衰弱死に、何らかの事件めいたものを感じてしまう。

「しかし、だからと言ってこれが事件だとは限りません」
「え!?だって、滅茶苦茶怪しいじゃないですか」
「何しろ、死因は不明。ただの衰弱死です。しかも、角田課長のお話では、前日までとても元気だった。つまり、監禁して弱らせた訳では無い」
「ウィルス…も否定されましたし…」
「毒物と言う可能性も考慮できますが、もしもそうなら、とっくに公表されているでしょうしねぇ。お手上げです」
「う〜ん…本当に原因不明なんだなぁ…」

 右京の言葉に低く唸りながら、亀山はぐるぐると考え込む。が、なかなか案は出てこない。
 …右京からも出てこないのだ、自分が考えて出る訳が無い、と、心の片隅でこっそりと思うのだが、そこは諦めが悪く、人一倍正義感の強い亀山のこと、悩むことはやめなかった。

「…さて、僕はそろそろ帰ろうかと思います」

 そう告げると、右京はかけておいたスリーピースの上着を着て、札を赤く返してしまう。

「ああっ!俺も帰ります!」

 それを慌てて追いかけ、亀山もまた札を返して帰路へとついた。



 小料理屋「花の里」。ここは右京と亀山、そして亀山の妻である亀山美和子の行きつけの店である。
 この店は右京の元妻である宮部たまきが女将として働いている、静かな場所。常に客で溢れかえっているという訳では無いが、知る人ぞ知る名店である。

「でも、怖いですよね。今流行りの衰弱死」
「そうなんですよ、原因不明ってところが特に」

 たまきの言葉に、美和子がうんうんと頷きながら同意する。
 実際、世間の皆が恐れている。根底の見えない恐怖と言う物なのかもしれない。
 原因がわからないと言うことは、当然誰が、いつ発症するかもわからないと言うことでもあり、明日は我が身かもしれないと怯えるのは、至極当然のことであった。

「こればっかりは、薫ちゃんじゃあどうしようも無いもんねぇ」
「これが、本当に病気ならな」
「あら、違うんですか?」
「あくまで、可能性の話です」

 冷静にそう言うと、右京はゆっくりと自分の酒を煽る。
 どうやら、この話の流れを、ここで断ち切るつもりらしい。その事を理解し、たまきも、そして亀山夫妻もそれ以上は何も言わなかった。

「時に、たまきさん」
「何ですか、右京さん?」
「お隣は、いつから写真館になったのでしょう?僕の記憶では、昨日まで確か、空き地だったと思うのですが」

 かなり唐突な話の展開に、一瞬だけ亀山は間の抜けた顔をした。
 ほぼ毎日この店に通っているが、隣の店舗のことなど気にも留めていなかっただけに、右京のその一言に驚いた。

「え…そうでしたっけ?」
「注意力が散漫ですよ、亀山君」
「すんません」

 ぺこりと亀山がわざとらしく右京に向かって頭を下げた瞬間。店の引き戸が開き、初老の男性が何やら箱のような物を抱えて入って来た。
 項辺り程度の長さの白に近い銀髪、丸い眼鏡の奥には、笑いジワの刻まれた目。

「こんばんは」
「いらっしゃいませ」

 はじめて来るその男性に、たまきは上品な笑顔で挨拶を交わす。
 それに対して男性の方も、穏やかな笑顔で深々と一礼すると、カウンターに持っていた箱を差し出した。

「しばらくの間、隣で写真館をやることになりました、光栄次郎です。ご挨拶に、これ、特製の手打ち引越し蕎麦。良かったら食べて」
「あら、ご丁寧に。ありがとうございます」

 どうやら、この老人は、右京の言っていた写真館の主人らしい。光栄次郎と名乗ったその老人は、蕎麦を置いていくと、そそくさと隣へ戻っていってしまった。

ディケイド-1:死者の共通点

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