相棒&仮面ライダーディケイド 傍迷惑な殺人

□ディケイド-1:死者の共通点
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特命係-1:不可思議


 かしゃりと、街の風景を撮りながら、士は周囲を見回す。
 街行く人の顔にはごく当たり前の平穏があり、異形達などとは無縁の生活を送っているような気がする。

「士君、どうしたんですか?」
「…別に。ただ、平和だなと思っただけだ」

 ただ、今までもそうだったが…平和に見せかけて、何かが起きた。今回もそれが起きないとは限らない。
 しかし、この世界に来てから得た情報と言えば、最近この辺りで流行している原因不明の衰弱死と、裁判官が一人辞めたとか言うくらいの物だ。
 本当に、平和だ。退屈な程に。
 士がそう思ったその時。白いスーツの男が彼らの前に立ち塞がった。見た目は紳士にも見える中年男性。しかしその顔に浮かぶのは、皮肉気な笑みと明らかな悪意。
 …アポロガイスト。人の命を奪い、自らの命とする存在。そうしなければ、一月しかその命が保たないと言われている。
 現在、その「他者の命を奪うための道具」…パーフェクターは、士がアポロガイストから奪い、未だその手の中にある。

「お前は…」
「久し振りだな、ディケイド。パーフェクターを返してもらおうか」

 いきなり本題に入りながら、アポロガイスト…人間態の時の呼び名はガイ…は、ゆっくりと手を差し出しながら士達に近付く。
 士達はと言うと、警戒したようにガイを睨みつけ、彼が近寄るのと同時に同じ距離だけ後退る。
 一定の距離を保ちつつ言葉を交わすその様は、どことなく滑稽に映る。

「返したら、お前はまた他人の命を奪うだろう?」
「当然だ。私は、この世界一迷惑な存在なのだ」
「どの世界でも迷惑なんだよ!」

 その言葉が合図になったように、士は自らの腰にベルト…ディケイドライバーを装着し、持っていたカードホルダー、ライドブッカーから一枚のカードを取り出した。
 黄色の縁取りに、背景色は濃い青。バーコードの様にも顔のようにも見える模様の下に、「453145」の数字が描かれたカード…士がディケイドに「カメンライド」…有体に言えば変身するためのカードだ。
 一方ユウスケも、自らの腹部に手を当て、今まで存在していなかった銀色のベルト…アークルを召喚し、いつでもクウガへ変身できるように身構える。
 後ろでは、夏海が二人の邪魔にならないよう、物陰に隠れている。
 これで戦う準備は整った。…そう思った。
 だが…ガイは、口の端を歪めて、軽く笑った。まるでそれが、愚かな行為だとでも言うかのように。

「何がおかしい?」
「この世界で変身することが、いかに迷惑な行為であるか、分かっていない貴様らを哀れに思っただけだ」
「何だって…?」

 くっくと、噛み殺しきれない笑い声を上げ、ガイは言葉通り、心底哀れむように彼らを見やる。
 一方の士達は、言葉の意味を酌みきれずに訝しげな表情を見せていた。勿論、いつでも変身できるように身構えたままではあるが。
 …変身することが、迷惑な行為。
 再び士の胸の内に、嫌な予感が広がる。
 鳴滝と言う名の男には、「世界の破壊者」と呼ばれ、いつか出会った白いマフラーをした青年には「破壊せねばならない」と言われた事を思い出す。
 自分の変身が、世界の破壊を促進させるのかも知れない……
 そんな苦い思いが、士に一瞬の油断を生んだ。
 その油断に乗じて、ガイは滑らかな動きで士との間合いを詰め、士の白衣の胸ポケットに入れていた銀色の何か…パーフェクターと呼ばれる「それ」を奪い取る。

「しまった!」
「フフフ…これは返してもらったぞ」

 勝ち誇ったようにガイは宣言すると、再び軽く笑い…唐突に現れた銀の幕の内側へと、その姿を消した。

「待て!」

 慌てて後を追うが、時、既に遅し。
 ほんの刹那の差で、銀の幕は最初から存在していなかったかのように掻き消えた。

「逃げられた…っ!」

 士の悔しげな呟きは、街のざわめきに消えた。



「…どうやらこの世界も、俺の世界じゃないらしい」

 あの後もしばらく周囲を探したが、ガイの姿を見つけることは出来ず、警視庁に向かう気にもなれぬまま、結局三人はここ、光写真館に戻って来ていた。
 士の溜息と共に投げ出された写真達は、歪み、ぼやけ、色も元とは異なっていた。
 …士曰く、「世界が自分に撮られたがっていない」ため、この様な、所謂ピンボケの写真になるらしい。

「士君、あの人、また誰かの命を奪うに決まってます」
「被害者が出る前に、早く取り返そうぜ!」

 やる気満々の夏海やユウスケとは対照的に、士の方はと言うと…かなり、やる気の無さそうな表情で彼らの顔と壁にかけてある時計を交互に見つめる。

「こんな時間からか?」

 士の言う通り…現在、夜の十二時。人を探すには、やや不向きな時間帯である。
 人気の無い時間帯に外をうろうろして、厄介事を招きたくは無い。ただでさえ、この世界は今、原因不明の衰弱死とやらで神経質になっている節があると言うのに。

「しかし怖いね、この病気。夏海達も気をつけるんだよ」

 ずぞぞ、と蕎麦をすすりながら、栄次郎はテレビの告げる衰弱死のニュースに向かって言葉を放つ。
 原因不明の衰弱死。まるで、アポロガイストに命を奪われたかのような被害者達が、この世界では二週間前から続出しているらしい。
 今朝で九人目だと、テレビの中のキャスターは沈痛な面持ちでその事実を伝えている。

「この病気も、おかしいよな。パーフェクターを奪われたのは今日の昼だから、アポロガイストの仕業って訳じゃないし」
「ひょっとして、この世界の『滅びの現象』がこの病気なんじゃ…」

 薄ら寒そうな表情で、自分の意見を言う夏海。一方で士は、どこか納得していないような顔つきで、じっとテレビの画面を食い入るように見つめている。

「士…?」

 彼につられるように、ユウスケも画面を見つめる。
 特に何の変哲も無い、普通のニュース。人が亡くなったと言う事実すら、あっさりと流してしまうよう、そんな情報達が画面から垂れ流されている。

「どうかしたんですか、士君?」
「別に」

 夏海の、訝しげな問いにもはぐらかすような答えを返し、士はただ黙って画面を見つめる。
 特に怪しいことは何も放送されていない。せいぜい、この二週間で亡くなったと言う人物達の名が連なっているだけ。
 佐渡裕輔と言う人物に始まり、風渓昭市、神前慎二、苑田匠、弘瀬数馬、橘一志、草壁宗司、櫻居亮太朗そして浅生渉と言う人物で終わる。

「…成程な、大体分かった」
「分かったって…何が!?」
「死んだ人間の共通点だ。どうやらこの原因不明の衰弱死とやらに、大ショッカーが一枚噛んでいるらしいぞ」

 ふ、と不敵な笑みを浮かべ、まるでドラマの探偵よろしく人差し指をテレビに向かって突きつける。
 …別に、画面の向こうにいる人物が犯人だと言いたい訳では無いのだろうが。

「どういう意味だよ士、共通点なんて…」
「鈍いなユウスケ。名前を音読してみろ」
「名前…?えーっと、ゆうすけ、しょういち、しんじ、たくみ、かずま、ひとし、そうじ、りょうたろう、わたる…って、ああっ!?」
「気付くのが遅すぎる気がするが、そう言うことだ」
「私達が出会った、仮面ライダーと同じ名前…!」

 気付いてしまえば、これ程恐ろしいことは無い。夏海とユウスケの背中にも、冷たい物が駆け抜けた。

「ヒトシとリョウタロウだけは出会ったことが無いが、多分片方は響鬼で、もう片方がモモタロスの契約者って奴の名前だろ」
「じゃあ…次に狙われるのは……」
「『つかさ』だ……多分な」


特命係-2:邂逅

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