相棒&仮面ライダーディケイド 傍迷惑な殺人
□特命係-2:邂逅
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亀山が特命係の部屋に到着すると、香り高い紅茶の香りと共に、それを嗜んでいる右京の姿が見えた。
毎度思うことではあるのだが、右京は一体何時に登庁しているのだろうかと思う。自分より遅く「花の里」を出ているはずなのに、いつも自分より早い時間に登庁していることが不思議でならない。
「おはようございます、右京さん」
「おはようございます」
亀山の挨拶に、軽く頭を下げて返す右京。それも、もはや日常の風景だ。
たまには右京より早く登庁してみたいと思わなくも無いが、早く来た所で、この「窓際部署」に仕事があるはずもなく、暇を持て余すだけだと思い返す。
「今日も今日とて、平和ですねー」
「結構なことじゃありませんか」
軽く伸びをしながら言った亀山の言葉に返しつつ、右京は手元のカップを置き、机の上に置いてある新聞に手を伸ばす。
これと言って大きな記事はなく、せいぜい例の「衰弱死」関連の記事が紙面を賑わせている程度だろうか。
「その病気…やっぱり、気になります…よね?」
「気になりますねぇ」
そもそもこの「衰弱死」が病だと診断されたのは、最初の「被害者」…佐渡裕輔と言う名の冒険家を診た監察医が、「怪しい点は無い」と診断したからだ。
原因不明であった以上、徹底的に調査されたらしいのだが、原因らしきウィルスや病原菌の存在は見当たらず、直ぐに二番目の「被害者」である風渓昭市が亡くなり、更に詳しく調査したが、全くと言って良い程に共通点が見当たらなかった。
現段階で言える共通点と言えば、せいぜい昨日右京が示唆した「屋外で発見されていること」と「男性」であることくらいだ。
「そもそもこの奇妙な現象が『病気である』と判断されたのは、最初の被害者に怪しい点が無かったからです。しかし…」
「昨日も言ってましたよね、見つかった場所と職業がどうにも腑に落ちないって」
「ええ。もう一度詳しく調べてみる必要があるかもしれませんねぇ…」
右京の眼鏡の奥にある瞳が、きらりと輝いたのを、亀山は見逃さなかった。
彼がこう言った表情をしたときは、大抵何らかの事件に発展することを、経験上亀山は知っている。伊達に長年の付き合いがある訳では無い。
「病」と診断されているが、右京はその診断に疑いを持っているのならば、亀山はその右京の勘にも似た考えを信じるだけだ。
「でも、遺体はとっくに火葬されちゃってるんですよね?」
「しかし、昨日亡くなったバイオリニストの方…浅生渉氏の葬儀は、まだ行われていません」
「そんじゃ、行きますか、右京さん」
ぱし、と拳を掌に当て、部屋を出ようと亀山がいきりたったその瞬間、部屋の外…組織犯罪対策五課が、急に騒がしくなった。
「な…何だ!?」
思わずその騒ぎに気圧され、亀山が声をあげた瞬間、角田が、滅多見せない渋い顔をして特命係の二人の前に立った。
「あ、課長!何かあったんすか?何か騒がしいですけど」
僅かに曇っている角田の顔を見ながら、亀山は不審そうな表情で問いかける。
部屋の外…五課の面々の喧騒も手伝って、右京の胸に嫌な物がこみ上げてきた。
そんな彼に気付いているのかいないのか、角田は軽く一つ溜息を吐くと、僅かに声の調子を落とし、深刻な口調でたった一言。
「例の病気だよ」
「はい?」
右京の問い返しに、角田は再び溜息を吐き、今度は彼らにもわかるように、彼の知る限りの情報を口にした。
「十人目が出たんだよ、『衰弱死』の。しかも今回は交番勤務の警官だってさ」
「本当っすか!?」
「ホント、ホント。身内ってことで、今一課の連中が現場に行ってる。しかも、今までより衰弱の仕方が早かったらしいよ」
その一言に、右京と亀山は顔を見合わせ…互いに、小さく肯き合うと、真っ直ぐに前を見据え…
「…行きましょう、亀山君」
「はい!」
無言のまま、二人は行き先を十人目の見つかった場所へと変更し、早速その現場へと向かったのであった。
警官が倒れていたと言う現場に到着した時、既にトラロープが張られており、狭い交番の中には、よく見かける顔ぶれがどこか苦しそうな顔で調査をしていた。
そんな中、入ってきた右京達に真っ先に気付いたのは、灰色のスーツを着た、垂れ目気味の男性。年齢は亀山と同じ位だろうか、彼らに気付くと眉間にきゅうっと皺を寄せ、心底嫌そうな表情を彼らに向けた。
「…おいこら亀!何で特命係のお前が、こんなトコに居やがるんだ」
「俺がここにいちゃ悪いんですかねぇ、捜査一課の伊丹さん?」
男…警視庁捜査一課刑事、伊丹憲一の言葉に、亀山は軽口で返す。
亀山とは犬猿の仲であり、特命係を快く思っていない人物の一人である。
毎度のことながら憎々しい顔をしているのだが…何故か今日は、左の頬が、まるで殴られたように赤く腫れている様に見える。
そのせいだろうか、伊丹の表情が、いつもより余計に不機嫌そうに見えるのは。
「悪いから言ってんだろうが、バァカ!」
「んだとぉ!?」
亀山と伊丹のやり取りに気付いたのか、別の刑事…伊丹より年長の男、三浦信輔が、これまた渋い顔で右京の方に向き直り、老眼鏡をかけなおしながら言葉を放つ。
「困りますよ、警部殿」
「すぐに済みます」
このやり取りも、基本的にはいつも変わらない。
伊丹が亀山に突っかかり、三浦や、もう一人いる若い男…芹沢慶二が右京にやんわりと苦言を呈する。が、それを軽やかに無視して捜査をするのも、もはやお決まりのパターンであった。
既に事切れている制服警官に向かって手を合わせ、右京と亀山はその警官の亡骸を調べ始めた。
亡くなったのは今度も男性。
この交番に勤務する警官で、警察手帳から、「小野寺司」と言うらしい。亡くなる前の階級は巡査。見たところ、まだ二十代だろうか、若いのに残念だと言う思いが、亀山の胸に去来する。
まだまだ先の人生があっただろうに…
そんな悔しい思いを噛み締めたその時。
彼の横で、冷静な声が響いた。
「…成程な、大体分かった」
言ったのは、見たことの無い白衣の男。亡くなった巡査と同い年くらいだろうか、軽く茶の入った髪に、どこか無愛想な…それでいて悔しそうな顔で、亡くなった巡査を見下ろしている。
「って、君も何で現場に入るの!?」
どうやら今まで芹沢にこの場に来る事を押さえられていたらしいが、白衣の青年は特に気にする様子も無く、遺体から視線を外すと、周囲をぐるりと見回した。
その目は、どこか睨みつけているようにも見える。
「士、刑事さん達の邪魔しちゃまずいって!」
「そうですよ士君」
トラロープの向こうで、この青年の友人らしき二人の男女が、やや焦ったように声をかけているが、士と呼ばれた青年は軽く鼻を鳴らすだけで、外に出て行く気配は無い。
それどころか、交番にあるパイプ椅子を勝手に引き出し、そこにさも当然のように足を組んで座ってしまう始末。
明らかに部外者であろうはずなのに、ここまで堂々と出来るのには、思わず呆れを通りこして感心してしまう。
「こちらは?」
「門矢士。監察医だ」
無愛想なその表情を崩さぬまま、監察医を名乗る、門矢士と言うらしい青年は、右京の問いにそう答えると、再び視線を亡骸に戻し…
「まあ、第一発見者って奴だな」
事も無げに、さらりとそう言ったのであった。
→ディケイド-2:新たな犠牲者