相棒&仮面ライダーディケイド 傍迷惑な殺人

□ディケイド-2:新たな犠牲者
1ページ/1ページ

特命係-2:邂逅



「おはよう、士」

 朝、起きて。
 光写真館のホールで士の視界に真っ先に入ったのは、斜に構えた1人の男性だった。
 右手に大型の、水色の銃のような物を持っており、軽くその銃を上げる仕草で士を迎える。
 彼の名は海東大樹、またの名を仮面ライダーディエンド。士同様、様々な世界を巡る存在だが、彼の場合士とは異なり単独で世界を巡ることができる。
 何より、彼の目的は士とは大きく異なっている。
 「世界を救うこと」が目的である士に対し、海東の目的は、「その世界のお宝を頂くこと」にある。自称、トレジャーハンターである。

「朝っぱらからお前の顔を見るなんて、今日は厄日らしい」
「酷いな士、僕を疫病神か何かと勘違いしていないかい?」

 全く傷ついている様子も無く、海東は士の言葉をそう言って流すと、急に真面目な表情になって士の顔を見やる。

「…パーフェクターを、奪われたそうだね」
「そう言えば、お前もあれを狙ってたんだったな。ま、頑張って奪って来い」
「士の狙っていないパーフェクターに、もう興味は無い。今の僕の狙いは…アレさ」

 そう言って海東が指差したのは…背景ロールに描かれた、チェス盤だった。

「水晶で出来たチェス盤なんて、またと無いお宝だろう?」

 軽く笑いながら海東はそう言うと、すっと士の横を通り過ぎ、その場から立ち去ろうとする。が、すれ違い様、士はぐっと彼の腕を掴み…

「ちょっと待て、海東」
「何かな?」
「ここが何の世界か…お前、知らないか?」

 士に問われ、海東は一瞬だけ黙ると…彼らしからぬ、困ったような表情を浮かべ…

「士、僕だって万能じゃない。残念ながら、僕もこの世界のことは知らないんだ。はじめてくる場所だしね」
「ちっ。いざと言う時に、使えない奴」

 それだけ呟くと、士は彼の腕を放し、やれやれと言わんばかりの表情で、そのトレジャーハンターを見つめる。
 海東の方は、別に士の言葉に気を悪くした様子も見せず、ひらひらと手を振りながら、今度こそ完全にその場を後にした。

「全く…あいつは一体何考えてるんだ…?」



 海東が出て行った、まさに刹那の差でホールに現れたユウスケと夏海は、珍しく自分達より早くにそこにいた士を引っ張り、改めてアポロガイスト探索に出ていた。
 大ショッカーが絡んでいるかもしれないこの出来事を見過ごせないと、二人はやる気満々のようである。
 この日何度目かの、呆れと諦めの混じった溜息を、士がふぅと吐き出した瞬間。
 一瞬、ユウスケの動きが止まり…その目が、大きく見開かれた。

「士!」
「何だユウスケ、騒々しい」
「あれ…あいつ!」

 うんざりしたような士の声も気に留めず、ユウスケはある一点を指差す。
 その先にいるのは…自称、ディケイドにとって迷惑な存在、昨日も現れ、パーフェクターを奪った者…アポロガイストの人間態である、ガイの姿。
 だが…妙な違和感がある。普段のガイは、白い服に黒い手袋、立ち居振る舞いはどことなく紳士的なのだが、今、彼らの視線に入っているガイらしき人物は、灰色のスーツを着ており、上着を肩からかけ、だるそう…と言うか、「だるっそ〜」にしながら隣の若い男と歩いている。
 その一歩後ろには、老眼鏡をかけた中年と壮年の間くらいの年の男性が、どこか呆れたような顔で二人を見ていた。
 それが、奇妙ではあるのだが、いかんせん探していた存在と同じ顔。

「アポロガイスト!」

 そう認識すると同時に、ユウスケは無意識の内にガイらしきその男に向かって駆け出し…

「おい、ユウスケ!」

 士の制止も聞かず、次の瞬間にはその男の左頬を、拳で殴りつけていた。

「なっ!?」
「先輩!?」
「へ?」

 殴られた男と、その隣にいた男、そしてユウスケの声が重なった。
 相手が本当にガイならば、今の一発は避けられたと思ったのだが…実際は鈍い音と共に、殴られた男が軽くよろめいている。
 ユウスケの手にも、きっちりと自分の右ストレートが入った感触があり、信じられないと言わんばかりの表情で自分の拳とよろめいた相手を交互に見比べる。

「大丈夫ですか、先輩?」
「ってぇ…いきなり何しやがる、公務執行妨害でしょっ引くぞ!」

 心配そうな顔で問いかける若い男を軽く無視し、その「ガイに似た男」は殴られた頬を押さえながらも、ユウスケに向かって凄みを利かせる。
 …物凄く、柄が悪い。
 それだけで、この男がガイでは無いと理解できてしまうのだが…後の祭りと言うべきか、心底申し訳無さそうな顔をするユウスケを、横で士がやれやれと言わんばかりに肩をすくめた。

「…よく見ろ、ユウスケ。良く似た他人だ」
「す、すみません、すみません!その、知り合いに似てたものですから…」
「似てるってだけで殴りつけてくんな!」

 平謝りするユウスケに、男は憤然と…と言うか、完全にユウスケの胸座を掴んで怒鳴るが、その横では若い男が苦笑しながら、ポツリと一言。

「先輩に似てる人って…性格悪そー…」
「あぁ?何か言ったか、芹沢?」
「いえ、何も」

 若い男…芹沢と言うらしい…は、凄まれながらも、どこかにやついた表情でふいとそっぽを向いた。
 どことなく、笑いを堪えているようにも見えるのは、夏海の気のせいだろうか。

「おい伊丹、どうでも良いが、そのままじゃ腫れるぞ」

 老眼鏡の男性が、ガイに似た男、伊丹にそう声をかけつつ、どこから用意したのか、濡れたハンカチを渡してやる。
 それをひったくるように受け取りながら、伊丹は自分の左頬を押さえた。相当に痛かったのか、僅かに顔を顰める。

「とにかく、丁度近くに交番がある。テメエらに事情聴取してやるから、ありがたく受けろ!」
「だ、そうだ。良い経験になるんじゃないか、ユウスケ」
「士…お前、俺を売るのかよぉ!」
「売るも何も、俺の制止を聞かなかったお前が悪い」

 ユウスケの苦情など何のその。
 言うが早いか、目と鼻の先にある交番へ向かって、伊丹はユウスケの腕を引っつかんでズンズンと歩き出す上、その先導をするように、士も我先にと交番へと向かう。
 そして、交番に入った瞬間。士はその入り口で倒れている、一人の警官を見つけてしまった。

「何立ち止まって…ああっ!?」

 急に止まった士を不審に思ったのか、伊丹が彼の後ろから覗き込むようにして…同じ物を、見つける。
 一見すると、眠っているように見える。だが…その呼吸は弱く、今にも止まりそうな雰囲気。

「ナツミカン、救急車を呼べ!」
「は、はい!」

 士の指示に、夏海は大きく頷き、持っていた携帯電話で救急車を呼ぶ。その間、士とユウスケは倒れている男に声をかけつつ、応急処置を施す。
 だが…警官の呼吸はどんどん弱くなっていき、鼓動の間隔も徐々に長くなっていく。

「おい、これって最近流行ってる衰弱死じゃないのか!?」

 老眼鏡の男が、慄いた様に呟く。その瞬間…警官の鼓動が、止まった。

「士君、今救急車が…」
「もう遅い」

 がくりと項垂れながら、士は小さく夏海に言葉を返す。ユウスケや、伊丹達三人も、悔しそうにその拳を握り締めている。
 そんな中、士は気付いた。警官の首にある、小さな傷跡と、その脇に書かれた、大ショッカーのマークに…


特命係-3:被害者

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ