相棒&仮面ライダーディケイド 傍迷惑な殺人
□特命係-3:被害者
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「門矢士、監察医だ。まあ、第一発見者って奴だな」
軽い口調でそう言った門矢と言う青年に、軽く右京は首肯し…
「成程。警視庁特命係の、杉下と申します」
「亀山です」
自分の警察手帳を見せつつ、二人はその第一発見者に一礼すると、右京は不思議そうな表情で門矢に向かって言葉を放つ。
「監察医にしては、随分とお若くていらっしゃる」
「…だろうな。だが、監察医ってのが、ここでの俺の役割らしい。それは紛れもない事実だ」
右京の言葉に、門矢はついと目を反らして、あっさりと彼の言葉を肯定した。
その様子は、本人自体も、監察医と言う立場にあることを疑問に思っているように、亀山には見えた。
都内の監察医は、知事によって任命された医者のことであるのだが…門矢は、普通の医者としても、若すぎるような印象がある。
まして、他人の死因を詳しく調べる「監察医」の肩書きを持つ者ともなると、それなりの経験が必要となる。必然的に、年齢もそれなりに必要になってくるのだが…目の前の「監察医」は、どう見ても二十代前半くらいにしか見えない。
右京で無くとも、不自然に思うのは当然であろう。
彼の言う、「ここでの役割」という言葉が引っかかるが…それより先に、聞かねばならないことがあった。
「…成程。ところで、先程『大体分かった』と仰ってましたが、何が『大体分かった』のでしょう?」
「この男の死因だ。衰弱死…に見せかけた薬物中毒だな。何を使ったのかは詳しく調べてみる必要があるだろうが」
「へ?」
「よく見ろ。首筋に薄くだが、傷痕が残ってる」
訝る亀山に、門矢はすっと人差し指を、無くなった巡査の首筋に向ける。
それにつられるように、二人は…ついでに後ろで聞いていた伊丹達も…その指の先を注視し、気付いた。
門矢の言う通り、首筋には、薄くだが赤い傷痕…もっと言ってしまえば、注射痕のような、何かに刺された痕が残っていた。
よく見なければ気付かない程度の物だが、あると分かれば気にかかって仕方の無いもの。
「それじゃあひょっとして、最近の原因不明の衰弱死も…殺し?」
「……その可能性が、格段に上がりました」
屈めていた体を起こし、右京と亀山は真剣な表情で互いに頷きあう。
九人目の被害者である浅生渉の亡骸を確認しなければ分からないが、もしも同じ様な傷痕があったならば、一連の衰弱死は、連続殺人事件に発展する可能性が、格段に跳ね上がるのだ。
互いにそう考えたのか、二人はその場を後にしようとして…ふと、右京の視界の端に、何かが映った。
「右京さん?」
立ち止まった右京を不思議に思ったらしい。車に向かおうとしていた亀山が振り返り、きょとんとした顔で右京の視線を辿る。
「亀山君」
「はい?」
「このマーク、君は分かりますか?」
「マーク…?ああ、ひょっとして、これですか?」
そう言って亀山指し示した先にあるのは、双頭の鷲と地球をモチーフにした正体不明のマーク。
地球の部分には、「DCD」と描かれており、それを鷲の尾羽らしきものが刺し貫いているようにも見える。少なくとも、良い意味があるようには見えなかった。
まして、遺体の脇に描かれているのだ。なおのこと不吉な印象を抱かせる。
「『赤いカナリヤ』…じゃないですよね?」
「亀山君には、これがカナリヤに見えますか?」
「…見えません」
鳥と言えば、国際的な過激派テロリスト、「赤いカナリヤ」の名前が浮かぶのだが、右京の言う通り描かれているマークは彼らの旗印である「カナリヤ」ではなく、鷲や鷹と言った猛禽類。
どう頑張っても、カナリヤのような可愛らしい鳥には見えない。
「気になります、か?」
「気になりますねぇ」
あっさりと頷かれ、亀山は大げさな仕草で呆れたように肩を落とす。
今までの被害者の傷痕より、そのマークの方が重要ですかね?
思わず、そう口に出して言いそうになるのを押し止め、亀山はマークを見ながらその場に立ち尽くしてしまった自分の上司に、どこか呆れたような視線を送る。
「警部殿、そろそろ」
そんな亀山に助け舟を出したのは、渋面の三浦。
勿論、彼に亀山を助ける気など無く、さっさと特命係の二人を追い出したいだけなのだろうが…今は、その言葉が、亀山にはありがたかった。
「…失礼。ああ、一つだけ」
「聴取なら後にして下さいませんかねぇ、警部殿」
この上なく嫌そうな伊丹の言葉をもさらりと流し、右京は視線をマークから、未だにパイプ椅子にふんぞり返る門矢に移し、問いかける。
「門矢先生、こちらのマーク、ご存知ありませんか?」
「…何で俺に聞く?」
「形式的な質問ですので、お気を悪くされたのなら、申し訳ない」
「この人、細かいことが気になっちゃう癖があるもんで」
どことなく不機嫌そうな門矢に深々と頭を下げて言う右京と、それをフォローする亀山。
そんな二人を見て、門矢は何を思ったのか。どこか憮然とした表情で右京の指したマークに視線を向けるが、すぐにそこから目を反らし…
「……さぁな」
とだけ答えた。
その返答に満足げに頷くと、右京は再び頭を下げると、亀山を引き連れてその場を後にした。
何の問題も無く、右京と亀山は九人目の被害者であるバイオリニストの遺体を確認させてもらえることとなった。
たった一人の遺族である義理の弟君も、詳しい死因を知ることができるのならば、と快く承諾してくれたのだ。
「兄の死因が、本当に病だと言うなら、それも仕方ないと思うんです。だけど、今の『原因不明』というのは納得できない」
悔しそうにそう言った彼…確か名は牙宰…に篤く礼を言って、二人はその亡骸を…特に首筋近辺をそっと見やった。
そして…右京の読みは、正しかったらしい。この被害者の首にも、小さな、赤い傷痕がうっすらと残っていた。
協力に感謝し、二人が浅生邸を後にすると…亀山はこらえ切れないように、言葉を紡いだ。
「右京さん、やっぱりこれ、連続殺人ですよ!」
「そのようですねぇ」
「畜生…十人も殺されるまで気付かなかったなんて……!」
ガシガシと後頭を悔しげに掻き毟りながら、亀山は苛立ったような声でぼやく。
そんな亀山とは対照的に、右京は静かに…だが、それでも密かな悔しさを声に滲ませながら、彼の考えを口にした。
「しかし、あのような傷痕…素人ならともかく、監察医の方が見逃すでしょうかねぇ?」
「…うーん…実際、門矢先生は気付いていましたし」
「ええ。先程も言いましたが、そもそもこの奇妙な死が『病気である』と判断されたのは、最初の被害者に怪しい点が無いと診断されたからです」
宙を睨みつけながら、右京は人差し指を立てつつ、まるで教師か何かのようにそう説明しだす。
彼の言いたいことが、亀山にも漠然とだが見えてきた。
…右京は疑っているのだ。最初の被害者を診た、「監察医」を。ならば、次に右京が向かおうとしている場所は…最初の被害者を診た監察医のいる場所。
そこに向かおう、そう、亀山が言いかけたその瞬間。男性の悲鳴が、今出てきた家から響いた。
「今の声は…!?」
声の主など、この状況下では一人しかいない。
慌てて右京と亀山は出たばかりの家へと戻るが…そこにいたのは、亡骸の横に倒れ、衰弱しきった男性の姿があった。
しかしその体のどこにも…傷痕は、無かったのである。
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