相棒&仮面ライダーディケイド 傍迷惑な殺人

□ディケイド-3:アポロガイスト
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特命係-3:被害者


『…疲れた』

 散々伊丹、芹沢、そして老眼鏡の男…三浦の三人から、こってりと絞られたユウスケと、第一発見者であるが故に執拗に状況を聞かれた士は、警視庁から出てくるや否や、同時に吐き出すようにそう呟いた。

「長かったですね」
「ああ。どうやらこの世界の警察は、あの注射痕に気付いてなかったらしい」
「内部じゃ、連続殺人か、今回は見せかけの殺人かで揉めているみたい」

 お陰でこの程度ですんだんだけど、と言いながら、ユウスケはもう一度深い溜息を吐いた。
 自業自得とは言え、アポロガイストと同じ顔をした男に、凄く…物凄くネチネチと嫌味と小言と僻みを言われ、精神的に参っているのだ。

「でもまさか、あの三人が捜査一課の人達だとは思わなかったよな、士」
「ああ…まあな」
「心ここにあらずですね。何か、気になることでもあるんですか、士君?」

 士が、何か真剣に考え込んでいたことに気づいたらしく、夏海は心配そうにそう問いかける。
 彼がこんな顔をするのは、往々にして落ち込んでいる時だ。自分が「世界の破壊者」だと、そう言っている時。
 だが、夏海はそうは思っていない。彼はむしろ、世界を守る者だとさえ考えている。だからこそ、彼を「破壊者」と呼ぶ存在…鳴滝と名乗る眼鏡の男性や、アポロガイストと言った大ショッカー幹部連中のことを、夏海はあまり好ましく思っていなかった。

「アポロガイストの奴が言ってただろ。この世界で変身することが迷惑な行為だって」
「ああ、そう言えば」
「でもそれは、私達の油断を誘うための嘘じゃないんですか?」
「かもな。だが…何故か引っかかる」

 軽く眉を顰めながら、士は宙を睨みつけて考え込む。
 きっと、真剣に思い悩んでいるのだろう。士は一人で抱え込む癖があるから。偽悪的で、口は悪いが、何よりも他人の…自分の仲間のことを第一に考える人だから。
 夏海はそう思い、彼の名を呼ぼうと口を開きかけた瞬間。士はやおら彼女を見やり…

「大体、何故この俺が取調べを受けて、凶悪極まりない柑橘人類のナツミカンが逮捕されない?不公平だろう。この世界の警察は見る目がなさ過ぎる」
「…………光家秘伝、笑いのツボ!」

 怒り混じりの夏海の声が響くと同時に、彼女は親指を士の首筋に突き立てる。ほんの一瞬だけ士は痛そうに顔を歪めたが…次の瞬間には、強制的な笑い声を上げさせられていた。

「なっ!?…ははっ、あっはっはっはっはっは!ナツミカン!テメっ…ハハハハっ…こんなトコで、ハーハハハハハハ」
「心配して損しました!」

 ぷんすかと言う擬音が似合いそうなまでに頬を膨らませ、憤然と怒る夏海に、笑いと抗議の声を同時に上げる士。そしてそれを可哀想な人でも見るかのような、哀れみの視線を送るユウスケ。
 そんな、彼らにとってはいつもの光景に、待ち行く人々は奇異な視線を送っていた。



 士の笑いもようやく収まった頃、三人は閑静な住宅街に来ていた。特に目的があって来た訳ではない。ただ何となく、足が向いたので来たと言うだけである。

「何か、やけに静かだな…」

 不審そうに呟くユウスケに同意するように、夏海も薄ら寒そうな表情で頷く。唯一士だけは、笑い疲れたのかげっそりとした表情を浮かべていたが。
 そんな、不自然なほどに静かな街を、しばらく歩いていたその時。周囲に、男性の悲鳴が轟いた。

「な、何だ!?」
「今の…あっちの方から聞こえましたけど……」

 いきなりの悲鳴に戸惑いながらも、士とユウスケは夏海の指し示した方向へと駆け出す。妙な胸騒ぎがする。何か、とんでもないことが起こっているような…そんな予感が、士の胸の内を占めかけた刹那。
 彼らの眼前に立ち塞がったのは、白いスーツを着た男性。今度こそ、正真正銘のガイ…アポロガイストその人だった。

「まさか、さっきの悲鳴は!」
「その通り。パーフェクターを返してもらったので、命の炎を奪ってやったのだ」

 口の端に歪んだ笑みを浮かべ、ガイはユウスケの問いに、予想通りの答えを堂々と返した。

「フフフ…これからも私は、迷惑な存在であり、この迷惑な殺人を繰り返す。だが…」

 高らかに宣言しながら、しかし士を見るガイの瞳に、ゆらりと憎悪の炎が揺れているのを、夏海は見た。
 あの男は、士をここで潰す気なのだと、はっきりと分かってしまう程、その男のまとう空気は邪悪であり、逃げ出したい衝動に駆られてしまう。
 ひょっとしたら、この男にかつて、命の炎を奪われたことがトラウマになっているのかもしれない。

「ディケイド。私にとって迷惑な存在であるお前は、ここで消えてもらう。アポロ・チェンジ!」

 ガイの言葉に反応するように、彼の身をぶわりと紫色の何かが覆う。
 それが徐々に形を成し、ガイの姿を、太陽のような形の赤い兜、黒い服に白いマントを見に纏った怪人態、アポロガイストへと変化させた。
 背中に回された両手には、左に太陽を思わせる形の盾が、右に細身の剣がそれぞれ握られている。

「悪いが、それはこっちの台詞だ。……変身!」

―KAMEN RIDE-DECADE―

 士は一瞬だけ迷ったような仕草を見せた物の、すぐに真っ直ぐに相手を見つめて、ピンク色の縁取りのカードをベルトに差し込む。同時に電子音が響き渡り、いくつかの虚像が重なり合い、黒とピンク…正確にはマゼンタと呼ばれる色の、鎧のようなものを形成する。
 仮面には七本の黒い縦模様と緑色に光る目、ボディには黒に白い縁取りで、「X」にも「十」にも見えるラインが、左肩から右脇にかけて描かれている。ディケイドと呼ばれる仮面ライダーに、士はまさに「変身」した。

「フン。世界の迷惑を考えない奴め!」
「それはお前の方だろ!」

 言いながら、ディケイドは腰にある、ライドブッカーをソードモードと呼ばれる、剣状の武器にしてアポロガイストに向かって、先手必勝と言わんばかりに斬りつけた。
 だが、相手はそれを軽く剣で受け流し、体勢を崩したディケイドに向かって返す刀で一閃する。
 一方でその攻撃を読んでいたのか、ディケイドは間一髪、その剣を回避すると、今度は軽く距離をとって、ライドブッカーを銃形態の武器、ガンモードに変形させてその弾丸を放つものの、それも僅かな差でアポロガイストの盾によって防がれてしまう。
 …まさに、一進一退の攻防。一連の流れの後、動けないと互いに分かっているのか、場はそのまま膠着してしまった。

「お前の目的は何だ?この世界は、一体…」
「それを教えてやる程度には、私はお人よしなのだ。この世界での目的は…食い溜め、だ」
「はぁ?」

 何と言うか…意外なアポロガイストの解答に、思わず素っ頓狂な声を上げるディケイド。
 そこに隙が出来た。アポロガイストは兜の下でにんまりと笑うと、一気にディケイドとの間合いを詰め、その腹部を横薙ぎに薙ぎ払う。

「ぐがっ……!」

 打撃に近いその斬撃に、ディケイドは吹き飛ばされ、近くの家の壁に派手にぶつかる。その口からは肺に残っていた空気と共に、悲鳴じみた声が吐き出された。案外とその一撃のダメージが大きかったのか、それとも打ち所が悪かったのか、ディケイドの変身は解かれてしまう。
 そんな士をおかしそうに眺めながら、アポロガイストがゆっくりと彼に近付き、止めを刺すべくその剣を振り上げた、その瞬間。

「こっちです右京さん!派手な音がした方向!」

 近くから、声がした。しかも、こちらに向かってくるような、複数の足音と共に。

「……今この世界の人間に邪魔されては厄介なのだ…命拾いしたな、ディケイド」

 忌々しげにそう言うと、アポロガイストは再び銀の幕の中へとその姿を消してしまった。

「くそ…待て!」

 必死に手を伸ばすが、既に銀の幕は無く、追いつくことの出来ない場所への逃亡を許してしまう。
 それを見ると、士は悔しそうにアスファルトに拳を叩きつけ、相手の消えた方向を黙って睨みつけた。

「士、大丈夫か?」
「ああ…何とかな」

 心配そうなユウスケに答え、立ち上がったその刹那、近付いてくる足音の主達が、その姿を見せた。

「あれ…門矢先生…?」

 ポカンとした表情でそう呟いたのは、先程出会ったカーキ色のジャンパーを着た刑事…確か、亀山と言う名だったか。
 そしてその後ろには、亀山よりも小柄な、知的な雰囲気を持つ眼鏡の刑事…杉下の姿も。

「何やら、事情がありそうですねぇ」

 周囲の荒れ具合と、士の辛そうな表情から何かを察したのか、杉下はそれだけ言うと冷静な視線を周囲に向けたのであった。


特命係-4:目撃者

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