相棒&仮面ライダーディケイド 傍迷惑な殺人

□特命係-4:目撃者
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ディケイド-3:アポロガイスト


 牙宰と言う名のバイオリニストを救急車に乗せ、犯人を捜すために見送った瞬間、何やら鈍い…まるで、建物に鉄球でもぶつけた様な音が、二人の耳に届いた。

「何だ、今の音……」

 あまりに派手な音に軽く身を竦ませ、恐る恐る亀山は音のした方向を見やる。
 どこかで解体工事でもしているのか?いや、それならばどこかにクレーン車のアームの様な物が見えるはずだ。しかしそれがない。
 …と、なると誰かが車に轢かれたか?
 右京と亀山、ほぼ同時にその考えに至ったらしい。慌てて二人とも音のした方へと駆け出していく。

「こっちです右京さん!派手な音がした方向!」

 指差しながら先陣を切る亀山を追いつつ、右京は今の音について考えてみる。
 …もしも本当に交通事故なら、ブレーキ音のようなものが聞こえたはずだ。しかし、今回はそれが聞こえなかった。
 少なくとも、何か硬い物に、派手にぶつかった様な音であったことは確か。では、喧嘩の類か?それにしては、音は派手すぎた気がする。
 では、一体何が……不審に思いながらも、音のした場所…人気の無い、空き家と思しき家の前に到着する。そこで彼の視界に入ったのは…友人と思しき男性に支えられながら、よろよろと傷だらけの姿で立ち上がる、門矢の姿だった。

「あれ…門矢先生…?」

 亀山の声に振り返った彼の口の端からは、僅かに血が滲んでいる。
 喧嘩でもしたのかと思うのだが…それにしては、どうも周囲が荒れすぎている。門矢以外にいる青年と少女の醸しだす雰囲気も、どこかギスギスしているように思えた。

「何やら、事情がありそうですねぇ」

 この状況を説明できるのは、目の前にいる三人くらいのものだろう。
 そう思い、右京はゆっくりと門矢に近付く。

「この状況、ご説明頂けますか、門矢先生?」
「その前に、こっちの質問に答えろ」
「はいぃ?」

 口元の血をぐいと拭いながらも、門矢は不遜な態度を崩さず、真っ直ぐに右京を見つめ、問いかける。

「俺達はさっき、この辺りで男の悲鳴を聞いた。…何があった?」

 暗に、自分のことよりまず事件のこと、と言っているのだろう。彼の目は、その年にしては様々な修羅場をくぐってきたような、強い意志のようなものを感じられる。
 その意志に気圧されたのか、亀山は軽くポケットに手を突っ込みながら、どこか悔しそうに言葉を紡いだ。

「それが…さっき、今回の事件の十一人目が出たんです。それも今度は、本当に原因不明」
「つまり、注射痕が無かったってことか」

 軽く溜息を吐きながら、門矢は亀山の言わんとしていることをあっさりと理解したらしい言葉を放つ。
 しかしその言葉に、特に意外そうな色は見えない。むしろ、無いことを知っていたかのような印象すら受ける。

「改めて。門矢先生。この状況をご説明頂けますか?」
「…そうだな、俺達はその十一人目を襲った犯人と遭遇、格闘したが逃げられたってトコだ」

 他の二人の態度や、門矢の挙動から考えると、それは嘘では無さそうだ。真実の全てを語っているとも思えないが。
 しかし…ただ格闘をしただけで、ブロック塀が砕けたり、道路が一部陥没していたり…街路樹に、銃弾のような焦げ痕が残ったりする物だろうか。
 しかも、門矢はたった今、相手を「犯人」と断定している。と、言うことは…彼らはその犯人を、知っているということだ。
 それも恐らく、以前から。

「犯人の顔、見たんですよね?」
「まあな。あの伊丹とかいう迷惑な刑事に良く似た、迷惑な奴だ」
「……士、伊丹さんは、迷惑な人じゃないから」

 亀山の問いにあっさりと応えた門矢に、横にいた青年が苦笑しながら突っ込む。
 だが、正直…亀山にすれば、その通りだと、門矢の言葉に思わず納得できてしまう。伊丹がいなければ解決できない事件もあったが、圧倒的に伊丹の存在が迷惑であることの方が多い。
 それと良く似た顔だと言うのだから、さぞかし厭味ったらしい目でこっちを見てくるわ、ことある毎に突っかかってくるわ、人の顔見るなり「特命係の亀山ぁ〜」と嫌っそ〜な顔と声でガン飛ばしてくるのだろう。

「ああっ何か想像しただけで腹立ってきた…!」
「亀山君、君が何を想像したのかは、大体予想できますが、その想像はどうかと思いますよ?」

 やんわりと右京に窘められても、亀山はその考えを改める気はない。
 はっきり言って、伊丹はかなり迷惑な存在だと思う。
 …今回の犯人とやらも、同じ性格なのかはさて置いて。

「ところで、先程から気になっていたのですが」
「何だ?」
「そちらのお二人は、先程現場にもいらっしゃいましたが…門矢先生の助手の方で?」

 右京のその問いに…三者三様の、微妙な顔が帰ってきた。
 門矢は心底つまらなそうな、女性の方は心外と言わんばかりに首を横に振り、青年の方は嬉しそうな顔でこくこくと頷いている。

「何で俺が、こんな凶悪柑橘人類と能天気馬鹿を助手にしなきゃならないんだ…」
「…士、夏海ちゃんに対するその表現、気に入ってるのか?」
「その前に、ユウスケは自分が『能天気馬鹿』って言われたことに突っ込むべきです」
「…で?結局お二人は?」
「ああ、俺は小野寺ユウスケって言います。士の助手です。自主的に、ですけど」
「私は、光夏海です。…士君が家に下宿してるんで、逃げないように見張ってるだけですから!」

 亀山の問いに、爽やかな笑顔で返す小野寺と、どこか困ったように顔を顰めて言った光。どちらも自己紹介からすると、正式な門矢の助手、と言う訳では無いらしい。仲のいい友人といった所だろうか。
 どことなく、微笑ましい印象を、亀山は抱いた。

「しかし、いいのか?あんたらは捜査本部とやらに行かなくて」
「俺達、特命係っすから」
「『特に命令が無い限り何もしない』。それが僕達です」
「今は、特に命令がある訳でもないんで、俺達は自主的に、調べている所なんです」

 門矢の質問に、二人が軽く笑って答えた、その刹那。右京の携帯に着信を告げる特有の振動が響く。

「失礼。…杉下です。……ええ。分かりました。そのように」
「今の、誰っすか?」
「刑事部長から、戻って来いと言われてしまいました」
「『命令』が下った訳だ」
「そうなりますねぇ」

 右京の言葉に、軽く鼻で笑いながら言った門矢に、こちらも軽くそう返し…どこか名残惜しそうな表情で、その場を立ち去った。
 …戻った彼らに、内村刑事部長から、「余計な真似はするな」と釘を刺されたのは、言うまでもない…



「いらっしゃい」
「どうも、たまきさん」

 もやもやした気分を抱えながら、いつも通り右京と亀山は小料理屋「花の里」の暖簾をくぐると、そこには楽しそうな笑顔のたまきと、アルコールで僅かに上気した顔の美和子が談笑していた。

「随分と楽しそうですが、一体何のお話をなさっていたんです?」
「美和子さんが今日、面白い人達を見かけたんですって」

 右京の問いに銚子とお猪口を用意しながら、たまきは温和な笑みのまま穏やかに答える。
 その言葉を継ぐように、美和子は大きく首を縦に振って…

「若い男女三人組なんだけどさ、深刻そうな話を、白衣着た男の方が茶化したらしくって」
「三角関係のもつれか?よくある話じゃねぇか」
「薫ちゃん、人の話は最後まで聞きたまえ。その茶化された方の女の子が、こう…ぶすっとその男の首を指で押したんだ」

 言いながら、美和子は隣に座る自分の旦那の首の横あたりに、親指をぶすりと押し入れる。
 予想していなかった彼女の行動に、亀山も対処し切れなかったのだろう。なされるまま、首をぐいぐいと親指で押される。

「いでででででででっ!美和子、お前、人で実演すんなって!普通に痛かったぞ、今の」
「…そう!普通はそういう反応返すでしょ。ところが白衣の男は違ったんだなぁ…」
「と、言うと?」
「…何と、大笑いを始めちゃったんです」
「…はいぃ?」

 不思議そうに小首を傾げ、彼の口癖とも言える台詞を右京が吐き出したその瞬間。
 「花の里」の入り口から、聞き覚えのある女性の声が高らかに響いた。

「光家秘伝、笑いのツボ!」
「ちょっ、まっ……ハハハハ、あっははははははっ、は、ははっ。な、ナツミカン、またっ…ハハハハハハハ!」
「……すみません。騒がしくして」
「そうそう、丁度こんな感じ…って、あら?」

 女性に首筋を押され、大笑いする男に、それをフォローするかのごとく、もう一人の男が頭を下げている。
 その様子に見覚えがあったのか、美和子の方は軽くぽんと手を叩くと…それが、彼女が昼間に見た「三人組」だと気付いたのか、きょとんとした顔で彼らを見やった。
 そしてそれは、右京と亀山も同じ。何しろ入って来た、馬鹿笑いを上げている…と言うか上げさせられているのは、昼間別れたばかりの門矢士、小野寺ユウスケ、光夏海の三人だったのだから。

「ハハハハ、は、は…はぁ。いい加減にしろナツミカン、本気で皮むくぞ!一日二回は死ねるわ!って言うか、お前がやると爪が刺さって痛いんだよ!一種の凶器だぞ、それ!」
「あー…それは納得…」
「ユウスケ?」
「何でもないです、ハイ」

 夏海に睨まれ、沈黙するユウスケ。
 その様子を、右京はただ、驚いたように、お猪口を持ったまま見つめていた。


ディケイド-4:花の里

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