相棒&仮面ライダーディケイド 傍迷惑な殺人

□ディケイド-4:花の里
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特命係-4:目撃者


 杉下、亀山の両刑事が警視庁に戻っていたのを確認すると、士もまた、写真館へ帰るべくスタスタと歩いていく。
 そんな彼の後を追うように、ユウスケと夏海も歩き出す。
 恐らく、あの二人が来た時点で、被害者…牙宰とやらは、病院へ運ばれていると考えるべきだろう。アポロガイストも逃げてしまったし、手がかりが無い以上ここにいる意味は無い。

「なあ、士」
「何だ?」
「今回の…アポロガイストの被害にあった人の名前、『きば・つかさ』って言うんだよな」
「らしいな」

 どこか考え込むような表情で言うユウスケに、特に何の感情も無い…いつも通りの無愛想な表情で士は言葉を返す。
 それに慣れているのか、返された方は、特に気にした様子も無く言葉を続ける。

「今までの感じから行くと、十一人目は『だいき』か『たける』…あるいは『こうたろう』じゃないかって思ったんだけど…」
「それもそうですね…今度はまた『つかさ』って名前の人でした」

 今まで予想していたのは、順番こそ違えど「出会ってきた仮面ライダーの名前」と言うルールがあった。
 ところが…十人目、そして十一人目は同じ「つかさ」と言う名。
 十人目の「小野寺司」に残っていた注射痕などを考えると、この事件、「犯人はアポロガイストの他に、もう一人いる」と考えた方が妥当だろう。
 アポロガイストが注射器を持って、人間をこっそり刺す所など、あまり想像できないし、そうする理由も見当たらない。
 と、なると…十人目の被害者の脇に残っていた、大ショッカーのマークから考えて、その「もう一人」も大ショッカーの構成員である可能性が高い。
 そして、今回の牙。アポロガイストに襲われたのが確定しているため、その脇にも大ショッカーのマークがあるかもしれない。
 …何しろ、大ショッカーはかなり…目立ちたがりな印象がある。

「もしも大ショッカーのマークがあれば…あっちの、デカイ亀とか言う方はともかく、杉何とかって奴は気付いてるはずだ」
「亀山さんと、杉下さんな」
「時々、士君は本当に人の名前を覚える気があるのかと、疑いたくなります」

 二人に呆れられつつも、士は軽く聞き流して歩を進める。
 そんな軽口を叩きながら、何だかんだで写真館の前に到着したのは良かったが…その扉には、一枚の張り紙がしてあった。

「何だ、それ?」
「…爺さんからか。『しばらく仮装パーティーに行ってきます。キバーラちゃんも野暮用らしいので、今日は誰もいません。栄次郎』」

 紙を手に取り、読み上げる士の顔が、徐々に険しくなっていくのが分かる。
 鍵はきっちりかけられており、残念なことに夏海も合鍵は持ち歩いていない。
 …士の旅に付き合うようになってからと言うもの、何かにつけて爆発やら怪物による襲撃やらで走り回ることが多くなったため、鍵を落とすと思ったからなのだが…それが、仇になった。
 これでは、写真館に入れない。

「しょうがない、どこかで時間を潰すか」
「どこかって、どこでだよ」

 士の提案は妥当な所なのだが、写真館のあるこの街は、所謂「飲み屋街」に近い。士達の様な二十歳そこそこの若者がぶらつくには、少々静か過ぎる。
 それに…普段あまり酒を飲むことが無いので、正直、その辺りの店に入っても、時間を潰せるかどうか…
 そんな風に士とユウスケが考えている一方で、いつの間にか夏海は隣…「花の里」と言う名の小料理屋の前に立ち、今にも暖簾をくぐろうとしていた。

「って夏海ちゃん!?そこ、呑み屋さんだけど!?」
「けど、お隣さんです。事情を話せば、一晩くらい泊めて貰えると思います」
「とか何とか言いながら、ナツミカンのことだ、光家秘伝でも使って強制的に泊めさせる気なんだろ」

 士のその言葉に、むっとしたらしい。
 一瞬、夏海の顔が軽く歪み、次の瞬間、彼女は士の襟首を掴んで彼を思い切り引き寄せると…問答無用と言うように、がらりと店の引き戸を開け…

「光家秘伝、笑いのツボ!」
「ちょっ、まっ……」

 店内に入るように押されると同時に、士の首に夏海の必殺技が炸裂。抵抗も虚しく、彼は崩れ落ちるように笑い転げ、店内の一番近い席にもたれかかる。

「ハハハハ、あっははははははっ、は、ははっ。な、ナツミカン、またっ…ハハハハハハハ!」
「……すみません。騒がしくして」

 仕方ないと言わんばかりの表情でユウスケが謝ると、女将らしき女性と先客らしき三人の男女は、呆気に取られたようにこちらを見ていた。
 その内の男二人に、ユウスケは見覚えがあった。それもそうだろう。昼間も会った顔…杉下と、亀山の二人なのだから。

「ハハハハ、は、は…はぁ。いい加減にしろナツミカン、本気で皮むくぞ!一日二回は死ねるわ!って言うか、お前がやると爪が刺さって痛いんだよ!一種の凶器だぞ、それ!」
「あー…それは納得…」
「ユウスケ?」
「何でもないです、ハイ」

 夏海にギロリと睨まれ、ユウスケは思わず一歩後ずさる。それは、彼女の眼力故なのか、それとも彼女が用意した笑いを生み出す親指への恐怖からなのかは、微妙な所だが。

「おやおや。門矢先生じゃありませんか」
「何で、ここに?」

 杉下、亀山の順に声をかけられ、ようやく夏海と士もこの二人に気付いたらしい。
 夏海は恥ずかしげに、士はあからさまに不機嫌そうな表情で立ち上がりながら、軽く一つ溜息を吐いた。
 一日に三回。同じ人間と会う回数としては、偶然では済まされない。余程の縁が無ければ、こうはならないはずだ。
 …ひょっとすると、こいつらがこの世界の仮面ライダーか?
 ふとそんな考えが過ぎるが…どことなく、違う気がする。杉下も亀山も、「仮面ライダー」と呼ぶにはあまりそれ相応の…命のやり取りじみた経験があるとは思えない。警察官である以上、それなりの修羅場をくぐっては来ているかもしれないが、それでも「それなり」だと思う。
 そんな士の考えとは他所に、夏海は何気に自分が置かれている状況を説明しだした。

「私の家、隣なんです」
「お隣と言うと、確か、『光写真館』でしたか。昨日、店主と仰る方が引越し蕎麦を持ってきて下さっていましたねぇ」
「それ、うちのお祖父ちゃんです。それで、その…お祖父ちゃんが鍵を持ったまま出かけたみたいで…」
「あ、成程。入れなくなっちゃったんだ?」

 ぽんと手を打って言った亀山の台詞に、夏海は申し訳無さそうにこくりと頷いた。
 そんな彼女の様子を可哀相に思ったのか、女将と思しき女性はどことなく夏海の困惑に同調するように頷き、穏やかな声で言葉を放った。
 …夏海が望んでいた、一言を。

「まあ、それは困りましたねぇ。良かったら、うちに泊まっていきます?」
「良いんですか?ありがとうございます」
「……最初からそのつもりだったくせに、良く言う……」

 やれやれと言わんばかりに呟かれた士の言葉は、隣にいた杉下とユウスケの耳にだけ届いたと言う…



 その後。二十歳も過ぎていると言う理由から、それなりに酔っ払った亀山に酒を勧められ。程よく口が軽くなった所で、客の中では紅一点、亀山の妻である美和子から、「病気」に関する情報が飛び出した。
 それまでの話によると、彼女はフリーの記者で、様々な事件を追っていると言う。
 時には、警察で裁くことのできない犯罪者を、記事を通じて裁くと言う行為に出ることもある。殆どは杉下に頼まれてのことだが、彼女自身の意志も、大いにあるらしい。
 …自分の正義を貫くその姿勢に、既に酔っ払ってしまったユウスケが感涙にむせていた。

「あ、そう言えばさ、あの例の衰弱死。十一人目が出たんだって?」
「流石に、情報が早い」
「まあ、フリーとは言え記者ですから。今をときめく弁護士が亡くなるなんて、結構大きなニュースですよ」
「…へ?牙さんって、弁護士だったのか?」
「牙?何言ってんの薫ちゃん、十一人目は神奈川在住の弁護士、辰巳ツカサって人だよ?」

 その言葉に、女将…杉下の元妻と言う宮部たまきと、言葉の張本人である美和子以外が硬直した。

「辰巳ツカサ…?」
「牙宰氏ではなく、ですか?」
「あれ?違うの?今日の夕方に倒れて、そのまま結構早く亡くなったって。監察医の先生が調べたらしいけど、やっぱり原因不明だって……ひょっとして、辰巳さんは十一人目じゃなくて…」
「十二人目だ」

 放たれた士の言葉に、美和子とたまきも息を飲む。恐らくは、その被害の大きさに。
 だが…士の考えていることは、彼女達とは異なっていた。
 うっすらとだが、見えてきた気がする。十人目以降…「小野寺司」に始まる、三人の「つかさ」の共通点が。
 そんな真剣な士の横顔を、杉下が鋭い眼差しで見つめていたことになど、気付かないまま。


特命係-5:死因

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