相棒&仮面ライダーディケイド 傍迷惑な殺人

□特命係-5:死因
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ディケイド-4:花の里


「不可解です」

 亀山が登庁するとほぼ同時に、右京は僅かに顔を顰めながらそう言葉を落とした。
 彼の目は、十一人目と十二人目…牙宰と辰巳ツカサの、「病」による被害を報じた記事に落ちたままではあるが、亀山の気配には気付いていたのだろう。
 入ってくるなりいきなりそのようなことを言った上司に、思わず不思議そうな表情を向けてしまう。

「不可解って、何が?」
「十人目、小野寺巡査以降、被害にあわれた皆さん、名前が『つかさ』です」
「あ、ホントだ」
「今までは関連性など無かったのに、何故、今になって『つかさ』と言う名の方ばかりが被害に遭われるのでしょう」

 ようやく新聞から目を離し、冷静な態度で、手元の紅茶を一口すする右京に対し、亀山は半ば興奮したように目を見開く。

「まだあります。これは米沢さんに取り寄せて頂いた、今までの現場写真ですが…見て下さい」
「へ?」
「どの現場にも…残っているんですよ、あの『双頭の鷲』のマークが。昨日の牙さんの近くにも、このマークが描かれていました」

 右京の指先にあるのは、確かに昨日見かけた、「双頭の鷲」のマーク。それがどの写真にも、ひっそりと、だが確実に自身を主張しているように映りこんでいた。
 気付いてしまえば気になるが、気付かなければただの模様にしか見えない。
 これは、犯行声明なのだろうか。だとしたら…このマークの意味を知る人物が、必ずどこかにいるはずだ。

「そして、もう一つ、気になることが」
「まだあるんですか!?」

 このマーク以外に、何かあるとは思っていなかったのだろう。亀山は、左手人差し指を「1」の形に立てる右京を、驚いたように見つめる。
 彼は一体、どこまでこの「衰弱死」に疑問を抱いているのだろう。そして、どうしてこうも疑わしい物を見つけ出せるのだろう。
 感心すると同時に、思わず呆れてしまう。
 そんな亀山の様子に気付いているのかいないのか、右京は真剣な表情で彼の顔を覗き込み…一人の名前を挙げた。

「門矢士」
「門矢って…監察医の先生ですよね、えらく若い。あの人が、どうしたんです?」
「一日に三回も出会ったこと、牙氏を襲った犯人を見ていると証言しているにも関わらず、それを警察に申し出てこないこと、何より昨日の、十二人目の被害者の名を聞いた時の反応。…それらがどうにも、僕には引っかかるんですよ」

 門矢士と言う青年が、どうやら右京の中にある、何かのセンサーに引っかかったらしい。彼を犯人だと思っている訳では無さそうだが、それでも疑うべき点はあるらしい。
 正直に言えば、亀山はそうは思っていない。彼は…どことなく、右京に似た目をしていると思う。自分の正義を貫き、それ故に何度も傷ついている…そんな、目。
 そんな風に思った時だった。再び二人が、刑事部長室に呼び出されたのは……



「蜂、ですか?」

 苦虫をまとめて噛み潰したような顔をした、白髪混じりの眼鏡の男…刑事部部長、内村完爾に呼び出されて聞かされた言葉を、思わず亀山はオウム返しに問い返していた。
 内村の横にいる面長の中年男性、中園照生参事官も、内村と同じような顔をしながら、亀山の言葉に大きく一つ頷くと…

「そうだ。監察医による小野寺巡査と浅生渉氏の解剖の結果、あれは注射痕ではなく、蜂に刺された痕だと言うことが分かった」
「でも、あの痕は蜂刺されの痕なんかには見えませんでした、けど?」
「バカモン!監察医がそう判断したんだ。あれは殺人ではなく…事故だ」

 内村の言葉の裏に潜む、「事件にしたくない」と言う意図が、二人には透けて見えた。
 それもそうだろう。「病」だと信じて疑わなかったこの一連の衰弱死が、仮に「他殺」だったとしたら…
 十二人も死んでいるのだ、マスコミは警察の怠慢を叩き、上層部はその責任を下に押し付けて逃げるに違いない。そんなことになれば、まず間違いなく、内村にとばっちりが来るだろう。中園だって憂き目を見るに決まっている。
 だから、これは殺人であってはいけない。病や事故でなくてはならないのだ。

「分かったな!?分かったらこれ以上穿り返すな!」
「蜂一匹に刺されたくらいで、死ぬもんなんすかねぇ?」
「アナフィラキシー・ショック、ですか」

 内村への、ささやかな抵抗とばかりに呟いた亀山の問いに答えたのは、味方だと思っていた右京からだった。
 それに驚いたのか、亀山だけでなく、内村と中園もきょとんと目を丸くして右京を見やった。

「ア…アナフィ…?」
「アナフィラキシー・ショック。アレルギー反応の一つです。過去に蜂に刺されたことがある方などはその毒をアレルギー物質として体が判断します。そして、もう一度その物質を投与されると、毛細血管拡張を引き起こし、ショック症状に陥ります。…下手をすると、死に至る」

 軽く頷くような仕草をとりながら、右京は室内を軽く回りながら説明を始める。彼の癖である、左手人差し指を「1」の形にした上で。

「しかし、症状は全身の蕁麻疹と、喘鳴、下痢、腹痛…見た目に分かりやすいはずなんですがねぇ……その監察医の先生ですが、もしや一番目の被害者…佐渡裕輔氏を診た方ではありませんか?」
「その通りだが」
「それが、どうした?」
「別の先生に、再度検死して頂くことをお勧めします」

 右京の反撃に顔を更に顰めながらも、中園と内村はすぐに首を横に振り…

「それは出来ん」
「随分と即答ですね。……何か裏でもあるんじゃないですか〜?」
「そんな物はない!」
「そうだ!今回の監察医が都知事の甥で、次の参議院選挙に出馬する予定だとか、そんな事情は無い!」

 …モロに言っちゃってますよ、中園参事官…
 口には出さないが、心の中で亀山がそう突っ込んだ刹那。内村の机の上にある電話が、けたたましく鳴り響いく。まるで、さっさと出ろと言わんばかりに。

「誰だ、こんな時に!」

 苛立つ内村に代わり、中園がその受話器を取った瞬間。その広めの額に、つぅっと一筋の汗が流れ…

「…小野田官房長からです」

 その名に、一瞬だけ内村の顔が歪む。
 小野田公顕。警察庁長官官房室長…通称、官房長と呼ばれる立ち位置にいる、所謂「お偉いさん」である。
 元は右京の上司であり、今だ以って右京に…と言うか特命係に厄介な仕事を持ってくることが多い、「狸」である。
 特命係にとっては、味方にも敵にもなる…厄介な存在。
 そんな彼が、内村に一体何を言っているのだろうか。全く予想がつかないが…少なくとも、内村にとっては良い知らせでは無いらしい。
 ささやかに口答えをしつつも、逆らえない悲しさか、きつく奥歯を噛み締めながらも、最終的には悔しげに一言。

「………分かりました。そのように」
「小野田さん、何て?」
「……別の監察医による、司法解剖のやり直しの指示が出た」

 叩きつける様に受話器を置きながら、ニヤニヤ笑う亀山に、憮然とした表情で内村は答えてやる。

「それで、その監察医って誰がやるんです?」
「それも指定された。…門矢士、とか言う奴に一任するそうだ」

 その言葉に、右京と亀山が互いの顔を見合わせたことは…言うまでもない。



「何か、意外な展開になっちゃいましたね?」
「そうですねぇ」

 不機嫌そのものの内村と、そんな彼の顔色を伺っている中園から解放され、二人はそう会話を交わしながら、特命係の部屋へ戻ってくると…
 そこには、いつも通りと言うか何と言うか、角田が自分のカップにコーヒーを注いで、二人を待ち構えていた。

「お、帰って来た」
「課長〜。またここのコーヒー飲んでたんですか?その内、ホントに豆代請求しますよ?」
「そう堅いこと言うなよ亀ちゃん。折角お客さん案内してきたんだから」
「お客さん?」
「よぉ」
「お邪魔してます」

 心当たり無く、不審気に見やった視線の先には。
 偉そうに亀山の席でふんぞり返っている門矢と、興味深そうに右京のチェス盤を眺めていた光と小野寺の姿であった…


番外:官房長室にて

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